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インバウンド観光客の国別支出額や滞在日数を徹底分析

インバウンド観光客の国別支出額や滞在日数を徹底分析

「欧米豪」からのインバウンド観光客は滞在期間が長いし、日本滞在中の支出額も大きい、といった話をお聞きになったことがあるホテル経営者の方も多いのではないでしょうか。

そうしたトレンドに呼応して、日本のホテル市場でも近年、長期滞在型の宿泊施設が増え始めています。しかしながら、なんとなく「欧米豪が良いらしい」というイメージでホテル経営を欧米豪のインバウンド観光客にターゲットを当ててはいませんか。

本当のところはどうなのでしょう?

インバウンド旅行者で欧米豪の滞在傾向が話題になることが多い
欧米豪のインバウンド旅行者の長期滞在傾向が話題になりやすいが・・・

「欧米豪」の旅行者や富裕層を捉えていく戦略は長期においての目線ではありますが、直近の訪日旅行としてのトレンドはどうなっているでしょうか。

欧米豪以外のインバウンド旅行者の滞在期間と消費傾向については現状どうなっているのでしょうか。

こうした疑問を晴らすべく、データをもとに、訪日外国人旅行者の消費傾向や滞在日数についてWASIMIL独自での分析を行いました。

本特別記事では、「データ」を使ってどの国からのインバウンド旅行者の支出額が大きく、また滞在日数が長いのかといった分析を徹底して行っています。

訪日外国人旅行者の滞在期間と支出に関する分析

インバウンド旅行者をターゲットにしてビジネスを考える時には、インバウンド旅行者の滞在期間が重要な指標になります。そのため、観光庁(JTA)が実施するような国際観光に関する統計や調査においても、特に、観光消費を引き上げていくための重要なパラメータとなっています。

本特別記事では、データを掛け合わせることで更に高度な分析をかけ、インバウンド旅行者の滞在期間の長さと日本旅行中の平均支出の相関関係を分析しました。

元データは、観光庁(JTA)が2019年に実施した訪日外国人消費動向調査を利用しています。2019年の調査では、多様な国籍の合計23,253人の訪日外国人旅行者へ調査が行われています。

今回の分析では、訪日外国人旅行者を国別にみて、日本滞在中の平均支出額や滞在期間に関してどのようなトレンドがあるかを分析しています。

滞在期間別の消費動向

まずは、インバウンド旅行者全体での消費トレンドについてみてみましょう。

旅行者の宿泊数と支出額のグラフ
出典:WASIMIL(観光庁「訪日外国人消費動向」をもとに独自分析)

上のグラフが示すように、インバウンド観光客全体をみてみると、日本で平均7泊し、1日の支出は17,698円であることがわかります。

1日あたりの支出額が多いのは、日本滞在期間が3泊までの滞在者で、1日あたり34,184円支出しています。

一方で、インバウンド観光客全体の42%が4~6日、日本へ滞在しており、1日あたりの支出額は23,036円となっています。また、36%は7~13日滞在で1日あたりの支出額は18,327円です。

このように、訪日外国人旅行者の支出傾向として、日本への滞在期間が長いほど支出が少ないという負の相関関係を示すパターンが目立ちます。

もちろん旅行者の所得のレベルなど顧客セグメントにはよりますが、現在の日本への訪日外国人旅行者の傾向としては、短期滞在者の方が1日あたりに多くの支出をしている傾向が読み取れます。

限られた時間だからこそ、お土産を急いで買ったり、日本食や文化を楽しんだりと支出意欲が高まっていることが想像できます。

滞在期間中の一日の支出

回帰分析により各国の分布をまとめてみると、どの国においても一概に滞在時間が長くなるほどに、1日の支出が少なくなることが示されました。

旅行者の滞在日数は短い方が支出額は多いというグラフ
出典:WASIMIL(観光庁「訪日外国人消費動向」をもとに独自分析)

やはり、現状のインバウンド旅行者をみてみると、国に関わらず、日本への滞在期間が長くなるほどに1日あたりの支出が減っていることがわかります。

国別インバウンド旅行者の平均滞在日数と1日あたり支出額トレンド

それでは、次により深い分析を行っていきましょう。

これまでは、国をまたいで似たようなインバウンド旅行者の行動を分析しましたが、更に国ごとに分析し、比較して見ると興味深いことが分かりました。

比較を示すための効果的なツールは、平均滞在期間(7 日間の平均より高いか低いか)または平均一日支出(平均一日支出より高いか低いか)の観点から国をグループ化し、四分グラフで示した以下のものです。

国別のインバウンド旅行者の平均滞在日数と1日あたりの支出額を分布させて分析を進めましょう。

国別インバウンド旅行者の滞在日数と1日当たり支出額の関係グラフ
出典:WASIMIL(観光庁「訪日外国人消費動向」をもとに独自分析)

さて、一見されてみて、非常に面白い分析だと思われませんか?

例えば、これまで欧米豪にだけに着目してはいませんでしたか?この分析をみると、シンガポールやロシアからのインバウンド旅行者も平均よりも長く滞在し、1日あたりの支出額も平均よりも高くなっていることがわかります。

ここから見えてきたトレンドを考慮して、例えば、あなたのホテルではシンガポールやロシア人旅行者へプロモーションをすることで欧米豪獲得へ集中する競合ホテルとの差別化が図れるかもしれません。

それでは引き続き、より細かく、この分析からわかる傾向を解説いたします。

(左上)グループ1:短期滞在・高額支出の国(中国や香港)

中国および香港のようなアジア諸国はこの左上位置のグループ1にあてはまります。

中国は平均より20%以上も1日あたりの支出が高くなっています。中国・香港からのインバウド旅行者は全体平均より1日少ない平均6日間を日本で過ごす傾向があります。両国とも2019年の観光統計によれば、日本訪問者数として世界トップでした。

(右上)グループ2:長期滞在・高額支出の国(フランスや英国)

右上のグループ2に位置付けられるフランスや英国といった国からのインバウンド旅行者は、日本への滞在期間が長く、支出の貢献度が高いことが分かります。

英国は平均宿泊日数11日で20%の高い支出を示しています。また、フランスは平均滞在日数14日で37%の高い支出を誇っています。

欧州の国だけがこのグループに属しているわけではありません。例えば、ロシアやシンガポールもこの長期滞在で高額支出傾向のある旅行者グループに位置付けられます。

英国やフランスに比べると少なくなりますが、それでもシンガポールは、アジア諸国の中でも滞在期間が平均より1日長く(8日)、また1日あたりの支出も平均より5%高くなっています。

(右下)グループ3:長期滞在・小額支出の国(米国やカナダ)

右下のグループは、平均よりは長期滞在傾向にあり、平均よりも1日あたりの支出が小額になっている国です。

米国はこのグループに属します。1日当たりの平均支出は全体平均より2%低くなっています。

一方、インド、カナダ、ドイツのような遠く離れた国では、平均11~13日の滞在で、長期滞在傾向にありますが、全体平均よりも1日当たりの支出が少なくなっています。

東南アジアからフィリピンとインドネシアもこのグループに該当します。宿泊日数としては8~9日程度であり、フィリピンは全体平均に対して1日当たりの支出額が最も少なくなっています(平均より39%低い)。

(左下)グループ4:短期滞在・小額支出の国(韓国や台湾)

最後に、左下にある全体平均からみて、短期滞在傾向にあり1日当たりの支出額も少ないグループです。例えば、韓国や台湾がこのグループに属します。

興味深いのは、これらの国はすべてアジアの国であるということです。インバウンド観光客数で2位と3位に位置付ける韓国と台湾では、顕著に滞在日数が短いことが読みとれます。両国共に、世界平均以下の支出で滞在期間としても平均で3-5日程度になっています。

一方、ベトナムとマレーシアからの旅行者は平均で7泊程度日本に滞在していますが、1日当たりの支出を見ると全体平均よりも約20%程度低くなっています。

今回の記事では、インバウンド観光客の滞在日数と1日当たりの支出に関して分析を行いました。

他国別の詳細・比較など詳しくは、ダッシュボードを触ってくてみてください。