
中小規模ホテルがSNSで直接予約を増やす方法:実際の成功例からの教訓
成功事例に学ぶ:SNSで直販を伸ばしたホテル
実際にSNSを駆使して直販予約を大きく伸ばしたホテルの事例から、具体的な戦術と得られた効果を見てみましょう。ここでは海外の2つのホテルを取り上げ、その戦略と日本のホテル経営者にも役立つポイントを解説します。
ケース1: 大型リゾートホテルがSNS経由売上を急拡大(ギリシャ「アマダ・コロッソス・リゾート」)
地中海の人気観光地ロードス島にある高級オールインクルーシブホテル「Amada Colossos Resort」は、SNSマーケティングに注力した結果、2023年から2024年にかけてSNS経由の予約数が+2600%という爆発的増加を遂げました。同期間のSNS経由売上も+2100%を記録しています。
この成功の背景にはいくつかの戦略があります。第一に視覚に訴える高品質なコンテンツです。同リゾートではプロによる魅力的な映像や写真を多数制作し、InstagramやFacebookで積極的に発信しました。インフィニティプールやプライベートビーチ、豪華な食事風景といった「映える」要素を存分に見せることで、閲覧者の憧れを刺激しています。
またインフルエンサーとの提携にも取り組み、旅行系クリエイターを招いてリール動画やブログ記事で紹介してもらう施策も行いました。さらに注目すべきはユーザー投稿(UGC)の活用です。宿泊客がハッシュタグ付きで投稿した写真を公式アカウントでリポストするなど、リアルなお客様の声を二次発信することで信頼性を高めました。
広告予算の面では、わずか+36.8%の増額投資でこの成果を達成しており、的確なターゲティングと有機的な拡散により高いROI(費用対効果)を実現したことが分かります。大規模ホテルゆえの潤沢なコンテンツ資産を活かしつつ、「見せ方」と「広め方」を工夫した好例と言えるでしょう。
この事例から学べるのは、贅沢な映像美とSNS特有のバイラル戦略を組み合わせれば、日本のリゾートホテルでも海外顧客を中心に直販を劇的に伸ばせる可能性があるという点です。実際、人々はSNS上の魅惑的なビジュアルに強く影響されるため、リゾートのように絵になる要素が多い宿泊施設ほどSNSマーケティングの恩恵は大きいでしょう。
ケース2: 小規模ブティックホテルがニッチ戦略で高単価予約を獲得(ギリシャ「サントリーニ島の14室のホテル」)
次に紹介するのは客室数14室という小さなブティックホテルの事例です。こちらはギリシャ・サントリーニ島の家族経営ホテルですが、限られた予算の中でニッチなターゲットに絞ったSNS施策を展開し、着実に直接予約を伸ばしました。具体的には、直近で17件のSNS経由予約を獲得し(総売上42,103ユーロ、1部屋あたり約3,000ユーロの収益)、これらはすべて広告費約5,267ユーロの投資から生まれています。
件数自体は大手に比べれば控えめですが、注目すべきは一件あたりの予約単価が非常に高いことです。これは同ホテルがSNS上で富裕層やハネムーン客といった特定の層に強くアピールできた証拠でしょう。
戦術のポイントは、高精度なターゲティング広告とニッチ市場への訴求です。FacebookとInstagramの広告配信で興味関心やライフスタイルを細かく設定し、「ラグジュアリートラベル」に関心のある欧米のカップルなどを狙い撃ちしました。また、投稿内容も他にはないホテルの特徴(エーゲ海を一望するプライベートテラス、オーナー手作りの朝食など)を強調し、大量の予約は捌けなくとも「ここにしかない特別な体験を求めるお客様」をしっかり掴んだのです。
その結果、少ないながらも高額の直接予約が実現し、収益率の高い運営に寄与しました。「フォロワーの数より質」を重視したこの戦略は、中小規模施設にも応用できます。万人受けを狙うより、自社の強みに響く層を絞り込み、その層に熱烈に支持される存在になる方が、限られたリソースで確実に成果を出しやすいからです。
日本でも、たとえば「建築好きが集まるデザインホテル」「猫好きに大人気の看板猫がいる宿」など何かしらコアな魅力がある場合、その切り口を深掘りして発信することで小さな宿でも遠方からわざわざ予約してくれるファンを掴めるでしょう。
これらの事例が示すように、ホテルの規模に関わらずSNSは工夫次第で直接の売上チャネルに転化しうる強力な武器です。「SNSはあくまで宣伝、予約は別」と考えるのではなく、SNS自体を販売経路の一つと捉える発想が求められています。実際、Panadvert社の分析によればクライアントホテルの80%以上がSNS経由の売上急増を経験しているとのことです。
SNSマーケティングに戦略的に投資し、高品質なコンテンツ発信と専門的な運用に取り組めば、予約数の増加だけでなくブランド忠誠心の醸成にも直接影響を与えられるといいます。日本の中小ホテルでも、海外の成功事例から学びつつ、自社の状況に合わせてSNS活用を本格化させることが重要になってきています。
エバグリーン戦略と長期的視点の重要性
SNSマーケティングで直販予約を増やす取り組みは、一朝一夕で完結するものではありません。短期的なキャンペーンで一時的に成果が出ても、継続しなければすぐに埋もれてしまいます。
最後に、長期的に効果を持続させるための視点とエバグリーン(不変)な戦略について確認しましょう。
- コンテンツ資産の蓄積: SNS投稿や動画は、一度発信して終わりではなく、ストック型の資産として考えましょう。特に有益な情報や感動を呼ぶコンテンツは、時間が経っても検索や共有で見つけてもらえます。
例えばYouTubeに上げた地域ガイド動画は一年後でも旅行計画中の人に発見されるかもしれませんし、Instagramのハイライトに保存したQ&A集は後から訪れたフォロワーの疑問解消に役立つでしょう。こうしたエバグリーンコンテンツに注力することで、常に新規顧客の流入と予約獲得のチャンスを創り出せます。
- 短期施策と長期施策のバランス: 直近の予約を増やすには割引キャンペーンや広告投下など即効性のある施策も必要です。しかし、そればかりでは将来的なブランド価値向上やロイヤルティ獲得にはつながりません。短期施策で得たフォロワーや顧客を、長期施策(有益な情報提供やコミュニティ育成)へと繋げていく計画を立てましょう。
例えば、キャンペーンでフォローしてくれた人に対し、継続的に旅の役立ち情報や宿のファン限定コンテンツを発信し「フォローし続ける理由」を提供します。その積み重ねがファンの定着とリピーター予約の増加につながります。
- KPIの設定と改善サイクル: SNSを直販チャネルとして位置付けるなら、フォロワー数やエンゲージメント率だけでなく予約転換率(CVR)やSNS経由のサイト訪問数などもKPIに据えて追跡しましょう。Googleアナリティクスや各SNSのインサイト機能を活用し、「どの投稿から何件の予約につながったか」「SNS経由の予約の客単価は?」といったデータを分析します。もし特定の施策が奏功していれば更に強化し、効果が薄ければ別のアプローチに切り替えるといった具合に、データに基づく改善サイクル(PDCA)を回すことが大切です。幸いデジタルマーケティングは結果が数値で見えるため、アイデアと検証を繰り返すことで費用対効果を高めていけます。
例えば「Instagram広告からのサイト流入は多いが予約完了に至っていない」と分かれば、ランディングページの改善やオファー内容の見直しを検討できます。地道な最適化の積み重ねが、やがて競合との差となって表れてくるでしょう。
- 常にアップデートを続ける: SNSのトレンドやアルゴリズムは常に変化します。数年前に有効だった手法が通用しなくなることも珍しくありません。担当者自身が最新情報にアンテナを張り、業界ニュースや成功事例を学び続ける姿勢が必要です。
例えば新しいプラットフォーム(クラブハウスやThreads等)の登場や、主要SNSの機能追加(Instagramの新アルゴリズムやTikTokショップ機能など)には敏感に反応しましょう。ただし全て飛びつく必要はなく、自社のターゲットに合いそうかを見極めて選択的に取り入れればOKです。また、日本市場特有の動き(例えばLINEの公式アカウント活用など)も注視し、インバウンド需要が高まればWeChatや海外向けSNSも検討するなど、フレキシブルな対応を心がけます。
最後に強調したいのは、「人間味」と「信頼感」です。SNS運用が上手なホテルは総じて、画面の向こうにいるユーザーを単なる数字ではなく「旅のパートナー」として捉えています。
誠実でブレない情報発信と、ファンとの温かいやり取りを続けることで、オンライン上に小さなコミュニティが生まれます。そこではフォロワー同士がコメントで情報交換したり、過去の宿泊者がこれから訪れる人にアドバイスをくれたりといった現象も見られるでしょう。そうなればホテルは単なる宿泊場所ではなく体験を共有する場として認識され、価格競争に巻き込まれにくい強いブランドとなります。
直販予約を増やす本質的な意義もここにあり、顧客と直接つながり信頼関係を築くことでリピーターや紹介客が増え、持続的な繁栄が期待できるのです。
おわりに: SNS時代における直販成功のカギ
SNSマーケティングを通じてホテルの直販予約を増やすには、「自社の魅力を適切な形で発信し、興味を持った見込み客を逃さずつかまえる」一連の流れをデザインする必要があります。そのためには今回述べてきたように:
- データに基づいたプラットフォーム選定 – ターゲット客層が多く集まるSNSに注力する(例:若者客狙いならInstagram/TikTok、ファミリーや外国人客狙いならFacebook等)。
- 各SNSの強みを活かす発信 – Instagramではリールで臨場感を伝え、TikTokでは親近感のある舞台裏動画でバズりを狙い、Facebookではコミュニティ醸成とCTA配置で予約導線を確保する等。
- ユーザー視点のコンテンツ戦略 – 美しいだけでなく「役に立つ・共感できる・驚きがある」内容を心掛ける(UGCの活用、限定特典の提示、物語性のある投稿など)。
- エンゲージメントと信頼の構築 – コメント返信やDM対応を怠らず双方向の関係性を築く。数値目標も追いつつ、人間味ある対応でファンを増やす。
- 継続的な改善と適応 – 投稿の効果測定から学び、戦略をアップデートし続ける。新機能・新潮流にもアンテナを張りつつ、自社に合うものを取り入れる。
これらを地道に実践することが何より重要です。幸いSNSは低コストではじめられるため、中小ホテルでも創意工夫と熱意次第で大きな成果を上げる余地があります。実際、紹介した海外事例のように「SNS経由で予約がどんどん入るホテル」は珍しくなくなってきました。日本においても、SNSマーケティングに本腰を入れるホテルが増えれば、OTA頼みではない健全な収益構造を築く助けとなるでしょう。
SNS時代における直販成功のカギは、「絆づくり」と「継続」です。
フォロワー一人一人との絆が信頼へと変わり、その信頼がやがて予約という行動につながります。そしてそのサイクルを絶やさず続けていくことで、直販比率の向上とブランド力強化という二つの果実を長期にわたって得られるのです。
ぜひ今日からできる一歩(写真一枚の投稿でも構いません)を踏み出し、SNSを通じて貴ホテルのファンを増やしてみてください。それが将来の予約帳に直結していく様子を、きっと実感できるはずです。
参考:
- The Rise of Social Media Direct Bookings in Hospitality - Panadvert
- 6 current social media trends for hoteliers in 2024
- 12 Ideas for Your Hotel's Social Media Marketing Strategy in 2024
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