
中小規模ホテルがSNSで直接予約を増やす方法:行動を促すコンテンツ戦略
直販につなげるためのコンテンツ戦略
プラットフォームを理解したら、次はそこで何を発信するか(コンテンツ戦略)が肝心です。ただ綺麗な写真を投稿するだけで予約が増えるほど簡単ではありません。SNSで直販を促進するには、ユーザーの心を動かし行動を促すようなコンテンツ計画と工夫が必要です。
その際のポイントをいくつか見てみましょう。
1. ストーリー性とブランドらしさを伝える
多数の競合がひしめくSNS上で自社ホテルを印象付けるには、ブランドの声とストーリーを一貫して届けることが重要です。都市型のスタイリッシュなホテルであればトレンドに敏感で都会的な雰囲気、温泉旅館であれば和の癒し、といったように、宿の個性や理念を明確に打ち出しましょう。
ただ設備を紹介するのではなく、「どんな体験価値を提供したいのか」を物語るのです。例えばスタッフの笑顔や何気ないおもてなしのシーンを紹介したり、創業の背景や地域との関わりを投稿で綴ったりすることで、閲覧者はホテルに親近感を持ち、共感によるファン化が進みます。
インドの高級ホテル「The Leela」は、YouTubeからInstagram、X(Twitter)まで全てのSNSで一貫したラグジュアリー路線のビジュアルと言葉遣いを徹底し、ブランド世界観の共有に成功しました。その結果、投稿一つ一つが「このホテルらしさ」を体現し、見る人に強い印象を残しています。
中小ホテルでも、背伸びして大手と同じことをする必要はありません。地元ならではのエピソードやスタッフの人柄など、「ここにしかない魅力」を軸にストーリーを紡ぐことが大切です。それがSNS上で差別化につながり、価格競争ではなく価値訴求で直接予約を取る土台となるでしょう。
2. 共感・拡散されるコンテンツ作り
SNSではユーザーに「いいね!やシェアしたい」と思わせるコンテンツが拡散し、新たな層へのリーチを生みます。ホテルにおけるシェアされやすいコンテンツには例えば以下があります。目を引くビジュアル: プロが撮影した美麗な写真だけでなく、スマホで撮った何気ない一瞬でも構いません。大事なのは閲覧者の「行ってみたい!」という感情を喚起することです。夜景の見える露天風呂、彩り豊かな朝食、ロビーで演奏されるピアノ、生き生きと働くスタッフの笑顔…見る人が自分を重ねてワクワクできるシーンを切り取って投稿しましょう。
最近は短尺動画が特に強力なツールです。3秒〜60秒の動画(TikTokやリール、YouTubeショート)はアルゴリズムに優遇され拡散力が高く、Google検索にも表示されるようになっています。実際、Googleは10分未満の動画を「短い動画」と定義して検索結果に取り込む動きを見せており、SNS動画がSEOにも寄与する時代です。短い動画でも物語性を持たせ、「チェックインから客室に入った瞬間」「シェフ特製デザートができるまで」「季節ごとの庭園の移ろい」などテーマを絞って制作すると効果的です。
- 利用者の声・UGCの活用: 前述の通り、UGC(利用者生成コンテンツ)は信頼性が高く他のユーザーの共感を呼びます。宿泊ゲストが投稿した写真やコメントをリポストさせてもらう、ハッシュタグキャンペーンで募集する、といった形で積極的にUGCを二次活用しましょう。
UGCは現代の口コミ広告であり、公式発信よりも「生の声」として響くものです。例えば「#○○ホテルの思い出」というハッシュタグを設定し、投稿してくれた人には次回使えるドリンク券を進呈する等の施策を行えば、多くのUGCを集められます。事実、ある調査ではUGCはブランド側の発信より6.6倍も購入意欲に影響するとされています。
中小ホテルでもハッシュタグを上手く育てれば、「◯◯に行くならこのホテル!」という口コミ認知が広がり、結果として直接予約が増加するでしょう。
- 限定オファーやコンテスト: フォロワーを予約転換させるには、行動を促す仕掛けも有効です。例えばSNS限定の割引コードや特典プランを提供すれば、公式サイトから直接予約するインセンティブになります。また、「抽選で1組無料宿泊券プレゼント」のようなキャンペーンはリツイートやシェアを生み、新規フォロワー獲得にも寄与します。
実際、国内大手ホテルがTwitter(現X)でフォロー&リツイートキャンペーンを実施し話題を集めた例や、Instagramでフォトコンテストを開催し応募作品を館内ギャラリーで展示するといったユニークな取り組みをしている例もあります。
注意点として、コンテストやプレゼント企画ばかりに頼ると一時的なフォロワー増に留まりがちです。あくまでエンゲージメント向上と認知拡大の一環と位置付け、得られたフォロワーをその後どうファン化・予約促進につなげるかまで設計しておくことが大切です。
- インフルエンサー/トレンドセッターの活用: フォロワー数の多いインフルエンサーにアプローチし、宿泊体験を発信してもらう手法は古くからあります。ただ近年は単なる「有名人のPR投稿」よりも、その分野で信頼のあるトレンドセッターを起用する方が効果的とも言われます。
たとえば旅行好きなミニインフルエンサー(1万人未満のフォロワーでも熱心なファンを持つ人)や、地元情報に詳しいブロガーなどです。彼らはフォロワーとの距離が近く影響力も濃密です。実際、派手な有名インフルエンサーの投稿よりUGCの方が影響力が高いというデータもあるほどで、「誰に発信してもらうか」はフォロワー数だけでなくエンゲージメント(共感度合い)で判断すると良いでしょう。
招待ステイやメディア向け内覧会を企画し、その際の体験を自由に発信してもらうことで、フォロワーに「行ってみたい!」と思わせるのが狙いです。ただし、ステマ規制や信頼性の観点から「#PR」等の表記ルールは遵守し、あくまで自然な体験談として伝えてもらうことが重要です。
- 地元ネタ・季節ネタなどの飽きさせない工夫: 「SNS担当者がネタ切れ…」という声もよく聞きますが、ホテルには発信できる素材が豊富にあります。地元のお祭りや季節イベントを紹介して「この時期はこんな楽しみがあります」と提案したり、周辺の隠れた名店をスタッフ目線で紹介したりするのも良いでしょう。
実際に地域と連携することでお互いのSNSで紹介し合える関係が築ければ、双方のフォロワー層にリーチが広がります。また、宿泊客からよくある質問(FAQ)を一つずつ取り上げて回答する投稿を作れば、有益な情報として保存・シェアされやすくなります。
ポイントは「見込み客の役に立つか」「思わず誰かに教えたくなるか」という視点でコンテンツを考えることです。そうして蓄積した投稿はエバグリーンな資産となり、時間が経っても検索やシェアから露出し続け、結果的に安定した直販予約の源泉となってくれるでしょう。
3. エンゲージメント重視と迅速な対応
SNSマーケティングのゴールはフォロワー数を増やすことではなく、エンゲージメント(ユーザーの反応)を高め、それを予約につなげることです。Instagramのフォロワーは1年で約1.9万人とFacebookの4千人より多く獲得できましたが、それぞれのプラットフォームで非常に高いエンゲージメント率を維持したことが成功の鍵だった、という例も存在します。
投稿へのコメントやメッセージにはできる限り素早く返信し、双方向のコミュニケーションを図りましょう。奈良の小規模旅館「ホテルニューわかさ」のTikTok公式アカウントでは、館内裏側の様子やスタッフ紹介動画を投稿し、多く寄せられるコメント一つ一つに丁寧に返信しています。その結果、フォロワーとの良好な関係性が構築され、アカウント全体の信頼感と親しみやすさが増しています。
こうした地道なエンゲージメントの積み重ねが、「この宿なら安心して泊まれそう」「スタッフの人柄が良さそうだから行ってみよう」という心理につながり、直販予約の後押しになります。
また、SNS上の反応を観察すればユーザーの嗜好や関心を知るヒントが得られます。どの投稿に多くの反応や保存が集まるか、逆にスルーされるのはどんな内容か。分析ツールを使ってエンゲージメント率やリーチ数を定期的にチェックしましょう。
旅行・ホスピタリティ業界の平均エンゲージメント率は約1.73%と言われています。もし自社投稿の反応がこれを下回る場合、コンテンツ内容や投稿時間帯、ハッシュタグ選定を見直すサインです。エンゲージメントは低下傾向にあるとも指摘されていますが、それでも動画の視聴維持率など別の指標でユーザーの興味度合いを測ることもできます。
重要なのは数字を追いすぎるあまり人間味を失わないことですが、データに学びつつPDCAを回す姿勢が長期的な改善をもたらします。
参考:
- 12 Ideas for Your Hotel's Social Media Marketing Strategy in 2024
- 6 current social media trends for hoteliers in 2024
- The Ludlow Hotel Social Media Marketing Case Study
- 〖ホテル・旅館〗SNS活用企業成功事例4選|口コミマーケティング・アカウント運用など|SNSマーケティングなら「マーケブック」
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